エルメス・シンガポールで開催されたフランス人アーティスト、Xavier Antinの展覧会をもとに制作された。会場には映像によって歪められた花を印刷した巨大な布が吊り下げられている。複数の布が分割する空間に2つの立体が佇む。一方は花瓶に活けられた色鮮やかな花束で、もう一方はビットコインのマイニングマシーンである。マシーンは毎日同じ時間に起動し、自動的にビットコインをマイニングする。その間、花は現実の時間に抗えず朽ちていく。機械は獲得した資金をもとに、地元の花屋へ自動で発注を行い、枯れた花は新たに届く花と交換される。
静かに作動する2つのサイクルを、デザイナーのGideonは出版物の形で可視化した。Xavierの作品がメディアを横断する際に生む歪みに対応すべく、色彩はオリジナルから歪めて印刷されている。一般的なCMYKを避け、Temporary Press所有の限られた色の中から選択された。現実の複製を目的として整備された4色を放棄し、手持ちの道具で異なる色空間を立ち上げる。下部には撮影された日付と時間、ビットコインのレートが記載されている。枯れゆく花の推移は再配置された色によってすぐに理解できるものではない。つまり本書は展覧会の説明や補足ではなく、あくまで「本」という物質的条件や経済性をもとに、メディア固有のオブジェクトとして、作品と同じく自律している。
初版の版元は、シンガポールの〈Temporary Press〉。グラフィックデザイナーのGideonとプロダクトデザイナーのJamieからなるユニットだ。彼らと雑誌NEUTRAL COLORSの誌面を通して交流したNC編集部は、第2版の印刷依頼を受け、共同出版という形式をとった。当初は3色を似た色で再現するはずだったが、テストを繰り返すうちにまったく異なる色で展開することに行き着いた。初版の印刷美をニュー・カラーで再表現したものが第2版である。2023年の東京アートブックフェアで発表される。発送は11月23日より随時行います。