Pages: 152
Format: 170×240×14㎜
Bookmaking: softcover
Language: English
Publication Year: 2023
Designer: Ine Lamerz
Publisher: Fw: Books
ISBN 978-908-32-8583-2

The Radiant Screen

The Radiant Screen
¥4550 (税込)

冷戦時、ロシアの核開発の拠点のひとつとなった閉鎖都市「Железногорск(ジェレズノゴルスク)」。機密秘匿のために外界から遮断され、地図上にも存在が記されなかったこの都市は他方、社会主義的ユートピアを実現すべく設計され、充実した教育機関や病院、育児施設、さらには映画館に至るまで、ソ連の他の地域に比べてはるかに豊かな暮らしが約束されていた。この理想郷に魅了されたアーティストのIne Lamerz(イネ・ラマーズ)は、都市の実態に迫る映像作品『The Radiant Screen』を制作した。本書は、その映像作品の脚本にあたる。物語の舞台は閉鎖都市「Ж」。そこを舞台に映像作品を撮ろうとするラマーズの分身「L」と付き添いの運転手、そして街で実際に生活していたと思しき5人のインタビュイーたちが、主な登場人物だ。なぜドキュメンタリーではなく脚本だったのだろうか。

本書に収められた写真は、それがどこで撮られたのか、そもそも実在する風景なのかについて、読み手には知らされない。巻末に向かうほどグリッジの強くなっていく街を捉えたそれらの写真は、あくまでディスプレイ越しにしかアクセスすることができないという、閉鎖都市と外界との絶対的な距離を演出する。登場人物の間で交わされるダイアローグも、その虚実は判然としない。実在する閉鎖都市「ジェレズノゴルスク」について語るかのように、社会主義的ユートピアである「Ж」について語るだけだ。

ラマーズはプロジェクトを進めていく中で、閉鎖都市の実態を暴く探偵的立ち位置から社会主義的理想郷を信じる夢追い人、そしてその理想郷の虜へと、自身の立ち位置が変わっていったことを告白する。つまりこの脚本は、実在する閉鎖都市に触発されたアーティストによって創り上げられた架空の社会主義的理想郷「Ж」の物語であり、There is no alternativeと言われて久しいポスト資本主義の先を見ようと試行錯誤する実践の記録でもあるのだ。