アムステルダムの独立系出版社〈Valiz〉の出版シリーズ「vis-à-vis」は、現実を写すものとしての写真とは異なる地平から写真を捉え直す『Failed Image』や、肖像画を吊るしあげる・燃やすといった抗議行為に焦点を当てた『Burning Image』など、視覚文化や建築、美術にまつわる言説を同時代的な観点から見つめ直すような出版物を数多く手がけてきた。
文化研究者で著者のErnst Van Alphen(エルンスト・ファン・アルフェン)は、インスタレーション・アートやパフォーマンス・アートについての議論は活発に行われる一方で、彫刻についての言説が視覚文化や哲学の領域で十分に語られてこなかったという。彫刻に焦点を当てた本書もまた、歴史的概観としてではなく、「感覚」、「皮膚」、「身体」、「客体性」、「物語の力学」、「空間」、「断片」といった具体的なキーワードから、彫刻についての言説をアップデートしようとするものである。
本の中にひとまわり小さな本をつくりだす本書の特異なフォーマットは、本文中に登場する作品名や作家名といった固有名詞に対応する写真を即座に参照することを可能にしてくれる。彫刻を知らない読み手にとっての読みやすさにもつながるのはもちろんのこと、読み手が著者と同じ視線でものを見ることができるようになるのだ。ここで画像は論考の脚注として活躍するが、文章の脚注としての画像という言葉とイメージの関係性は、私たちに馴染み深い仕草を思い起こさせる。話の中に出てきた固有名詞をスマートフォンで検索し、見つかった画像と言葉を頭の中で結びつける。知らない言葉に直面したときに自然と行っている仕草と本書のフォーマットはよく似ているのではないだろうか。