『Capital Compression』は、ベルギーを拠点に活動するアーティスト・研究グループの〈De Cleene De Cleene〉による一冊。ビットコインをはじめとした暗号資産を下支えするブロックチェーン技術のリアリティを、経済や技術的観点からではなく、文学的観点から追求している。ブロックチェーンについて調べても、時価総額のチャートを示したグラフや、技術用語だらけの仕組みの解説は見つかるが、結局のところそれが一体なんであるのかをリアリティをもって理解することは難しい。この捉え難さは単に、技術的な複雑さや難解さによるものなのだろうか?彼らは、この技術の捉え難さは複雑さに由来するものではなく、技術が抱える根源的問題によるものであるとする。その問題とは、かつての中央集権的な取引管理が担っていた真正性に対して、ブロックチェーンは取引の記録を暗号化し、それをまた記録し暗号化するという自己言及性によってそれを実現しているというものだ。
19行の詩と20枚の写真が絡み合う小冊子と論考の2冊組から構成される本書は、冊子自体をブロックチェーン技術の捉え難さを視覚化したひとつの作品として捉えることができる。中綴じという簡易的な製本方法でありながらも、針ではなく糸による製本が、冊子自体が写真や言葉の器ではないことを強調する。人工島で撮られた、全ページ裁ち落としで余白のない砂浜の写真は、読む者にまるで砂に触れているかのような錯覚を引き起こさせる。ほとんど変化のない砂浜の写真を前に、視線はその細部へと惹きつけられる。Trust meからはじまる詩も、ブロックチェーンの記録をさらに記録し続けることによって取引記録の信憑性を担保する自己言及的性格に準えたものだ。前の一行の暗号化を繰り返すことによって、写真にも論考にも依存しない自律した詩を志向している。