Karel Martensは、オランダのグラフィックデザイナー。ポスターや版画、書籍の編集と多岐にわたる彼の仕事だが、その全てにおいて重点が置かれているのがタイポグラフィである。そんな彼が近年精力的に取り組んでいるのが本書に並ぶ作品づくり。「Small Prints」は、デザイナーとしての仕事の傍ら、恩師のアダム・ロズカムから譲り受けた印刷機を使用して2016年から2022年にかけて制作し続けてきたモノプリントの作品集。
一点ものの印刷物のことを指すモノプリントだが、本書で彼が版として用いているのは自身で拾ってきた金属板や木片などの産業スクラップであり、さらに絵具ではなく印刷用インキが用いられる。工業部品によって生まれる幾何学的パターンや、発色の良いインク、2つの色が重なることで生まれる3色目に対する驚き。しかし、それ以上にマルテンスが教えてくれるのは、彼が画家であり版画作家のロズカムから学んだ、印刷機を複製技術以前のより純粋な生産のための手段として捉え直す視座である。
ノンブルが重なることにで生まれたグロテスクな記号が印象的な本書の表紙は、本文に使用されているオフセット版をそのまま転用して制作されている。そこには、本文と同じ用紙・版を用いることで表紙の印刷コストを削減し、特色の使用を可能にするという経済的な理由に加え、オフセット印刷機自体さえ一つの創作の手段にしてしまうという一貫したインディペンデントな精神が潜んでいる。