イギリスを拠点に活動する写真家のBindi Vora（ビンディー・ヴォラ）が2020年から制作を開始した、言語にもとづいたコラージュ作品シリーズ『Mountain of Salt』。パンデミックやイギリスのEU離脱、BLM運動といった記憶に新しい出来事における、混沌の渦中で飛び交う皮肉めいた造語や啓蒙的なメッセージが、作家によって膨大なアーカイヴから選択されたファウンド・イメージとつなぎ合わされた。本書ではページをめくることでイメージの残像とテキストとが結びつくという形でコラージュが実践されており、“Truth twister”、“You politicized pandemic, you fuck”、“The way to live”といったドキッとさせられるフレーズは、報道番組や新聞記事、ソーシャルメディア、そしてときには講義デモのプラカードから収集されたものだ。
パンデミックの最初期である2020年3月、空港にいた彼女が自身のフライトの予定を確かめに行くと、そこはチェックインデスクに押しかける人で溢れかえっていた。国境閉鎖に伴い行き場を失った彼らは、断片的で、虚偽まがいの、口伝えされた情報であれ、あらゆる情報にしがみつかなければならなかった。そんな状況を彼女は、これほど言葉が重みを持った瞬間はなかったと振り返る。政治家やジャーナリスト、そして市井の人々の声。本書においてこれらの言葉は、文脈から切り離され広告のキャッチコピーを彷彿とさせる書体にパッケージされ、統一されたフォーマットに淡々と並べられる。そこに作家によって選ばれ組み合わされた写真が差し込まれ、言葉は発せられたその背景とは全く異なるところで意味を持ちはじめる。