本書はテンポよくページをめくることができない。それほど鮮烈な回想記だ。トッドことパンクバンドSpitboyのドラマーで著者のミシェル・クルーズ・ゴンザレスが吐露する心情や、80~90年代のパンクシーンにおいて起きた事象の描写が、読み手の感情を揺り動かす。Spitboyはアメリカ・サンフランシスコで結成されたバンド。メンバー全員が女性。男性が活躍して当たり前のシーンにおいて、男性中心のバンドの数々の中の、ひとつの異物「紅一点」。シーンの中心にいつもいるのは男性で彼らの社会だから、異物として彼らのサポートにまわる。ミシェルは「女の子なのにパワフルなドラムを叩くね」と言われ続けた。そういったものと面と向かうことになる。だから、ページをめくる手が進まない。
さらに、アメリカでの人種差別の描写が非常に生々しい。Spitboyのメンバーでさえもトッドの家族(メキシコ人)に対してそんな態度をとったなんて……(日本ツアーでの描写にも、ウッと込み上げるものがある)何か言葉を吐かれるとか暴行されることだけが差別ではない。トッドがいうように「別の目」(96頁)で見ることこそ、差別なのだ。ジェンダーの課題、人種や階級による差別は現在も依然として続いている。本書はトッドの回想記であり、私たちの歴史であり、現在を映す鏡でもある。購入者特典として、雑誌『オフショア』山本佳奈子さんによる解説エッセイ付き。