Pages: 208
Format: 148×105×10㎜
Bookmaking: softcover
Language: Japanese
Publication Year: 2021
Designer: Nagiko Arizono
Editor: ことたび
Publisher: ことばのたび社
ISBN None

翻訳文学紀行Ⅲ

¥990 (税込)

異郷の物語との出会いはいつも新鮮である。そして時に馴染み深い故郷の物語や忘れかけていた自分の経験を思い起こさせることもある。言語は分厚くて不透明な壁だ。その言語を知らない者には壁の向こうに何があるのか知るよしもない。本書では言語の壁によって出会えなかったかもしれない異郷の物語と出会える。

ZINEとかインディペンデントとかDIYとかいう言葉は聞き飽きた、と、もうみんな思っているだろうしそう言っていったほうがいいんじゃないかと思う。流行とか消費とは違うところでやるという気概がなければ、ハリボテである。「ことばのたび社」が出しているのがこの海外文学翻訳シリーズだが、奥付を見てみると編集長は「ことたび」さん。事情があって本名を出さずに出版活動をされているが、「社」と名乗りつつも個人であり、一人でこの本を編んでいる。ISBNは取得せず、全国の小規模書店でのみ販売されている。

ことたびさんに深く共感するのは、「本を出したい」「本をつくりたい」が先にあるのではなく、「日本で読んでもらうべき作品がある」というストレートな動機があることである。もう少しシリアスに表現すれば、「自分がこれを世に出さなければならない」という責務を背負っている。世界のどこかの町のある作家が、苦悩し自我と闘いながら(ときには現地の体制と実際に闘いながら)世にうみおとした文学を、日本語読者にも知ってもらうこと。そして、日本のなかにいるだけではまったく知る機会のない遠い町のことを、日本の私たちが想像すること。ことたびさんと話していると、ことたびさんがその仲介者となる決心をして、責任をもって、かつ楽しみながら遂 行していることが見えてくる。また、それぞれの翻訳家たちが担当翻訳作品に寄せているあとがきも、立派な文学である。

ガワが先か、中身が先か。これは、外見やハヤリに流されてZINEやDIYという手段を選ぶことへのディスではなく、自分が無理をしないためのススメでもある。ガワから入ると、最終的には自分がしんどくなるし、疲弊する。購入者特典として、雑誌『オフショア』山本佳奈子さんによる解説エッセイ付き。

《翻訳家による海外文学アンソロジー》収録作品
ドイツ語文学:「メキシコ発見」エゴン・エルヴィン・キッシュ著/ことたび訳
トルコ語文学:「トルコ人、ドイツにて ドイツで経験した四年間の物語」ベキル・ユルドゥズ著/黒澤怜史訳
イタリア語文学:「紙とヘビ」トンマーゾ・ピンチョ著/二宮大輔訳
スウェーデン語文学:「それでけっこう」カール・ヨーナス・ローヴェ・アルムクヴィスト著/大鋸瑞穂訳
中国語文学:「茉莉香片(ジャスミン茶)」張 愛玲 著/小川主税訳