印刷物、音、一時的なメディアを扱うアムステルダムの出版プラットフォーム、OUTLINEを運営するJan-Pieter‘t Hartによる書籍。W-Streetは、ほとんど架空のキャラクター(A.)が住む、ほとんど架空ではない街(W-Street)の物語を描く。Aは週に5回、W-Streetを往復する。彼はその通りの端に住み反対側で働いているが、車も持っておらず、自転車に乗るのも好きではないので、歩くしか選択肢がない。街にはパブリックアートや記念碑があり、それらを横目に彼は思考を巡らせる。映画や書籍の引用はどれも断片的で、しかしどこかで繋がってもいるようだ。永遠に未完成で、過去を繰り返し上書きし続ける街を、Aは歩く。
著者はこれまで、書く行為は殺す行為であるという信念を繰り返し述べてきた。作家の主体が書かれた主体を消去するというのが彼の主張だ。しかし今回、彼はその逆、対象ではなく距離を消去する行為を執筆で試みている。俯瞰的な地図を描くのではなく、移動と観察、状況と関係性をただただ描写する。中綴じを半分に折った構造は複雑な街の角を曲がるかのようで、綴じるためのミシン糸は不完全に一部しかついておらず、本書に描かれたドローイングのように垂れ下がったままだ。





