オーストラリアのアーティスト、Nicholas Manganは、自身の活動を「素材による物語の表現」と定義し、過去20年間、サンゴの破片から暗号資産までをも素材として取り入れ、人類と自然の関係を探究する独自の作品群を制作してきた。本書は2024年にThe Museum of Contemporary Art Australia (MCA)で開催された展覧会の記録集である。
彼は主に彫刻と映像を使用し、物質、地理、資本、エネルギー、循環がどのように関係しているのかを描き出す。たとえば、ブーゲンビル島での政府との対立をもとにした映像作品『Progress in Action』では、不安定で異臭を発する自作のココナッツ由来のバイオ燃料によって映写機を駆動している。これは政府が彼らに食糧や医薬品、電力の供給を遮断したとき、革命軍が豊富にあるココナッツを同様の手法で燃料に変換し、土地を守るために抵抗したことに由来する。作品のみならずそれが表現される基盤や関係を明らかにする態度は、太陽を表象する映像作品を美術館のソーラーパネルのエネルギーで上映する『Ancient Lights』などにも通じている。内容と関係しているわけでもなさそうな複数の用紙によるめくり心地の違和感は、紙やインキが介在した素材の束が本であることの、仄かな主張のようでもある。