本書は、写真家・ジャーナリストであるBarbara Debeuckelaereとパレスチナの8つの家族の女性たちによる共同写真プロジェクト。パレスチナ、ヘブロンのテル・ルメイダ丘陵地帯にあるH2地区は、ヨルダン川西岸地区最大のパレスチナ人居住区であり、エルサレムを除けばイスラエル入植者が市の中心部に居住する唯一の地域である。ユダヤ教徒にとって重要な史跡や墓地がいくつも残されているため、過激な入植者たちが数多く存在している。パレスチナ人はそこで、入植者たちから憎悪に満ちた言葉を投げつけられ、頻繁に暴力を受けている。しかし街を統制する武装したイスラエル兵はそれを素通りする。もしパレスチナ人が彼らに反応し抵抗すれば、その場で銃殺される。
私たちが見ることのできるテル・ルメイダの写真や動画の多くは、パレスチナ人に対する暴力か、または抵抗する男性の姿がほとんどだ。Debeuckelaereは、そうした画一的なイメージにとどまらないこの地の側面を伝えようと何度か撮影を試みたが、自身の特権的な立ち位置や被写体との距離に対する違和感が、シャッターにかけた彼女の指を止めた。そこで彼女はこの地区で親交を深めた家族たちに、アナログ35mmフィルムカメラを手渡した。
H2地区は占領地域の中で最も監視の厳しい場所でもある。パレスチナ人は歩行すら大きく制限され、100フィートごとに設置された監視カメラと頭上を飛び交う無人偵察機に生活のすべてを晒されている。近年イスラエルが進める「ヘブロン・スマートシティ」という計画では、検問所に設置された顔認証システムとそこに関連づけられた個人情報のデータベースによって、より効率的なパレスチナ人の管理に成功している。彼らが秘密のフェイスブックと呼ぶこのデータベースは、ゲーム化されたアプリによって操作を容易にし、AI技術を搭載することで個人の認識アルゴリズムは常に最適化されている。
カメラはそこに視線が存在することを物語る。頭上から見つめる無数の目が捉えた画像データが、詳細に情報をスキャンする一方で、ここに収められた写真のほとんどがぶれ、ぼけ、光に溢れるあまり白く飛んでいる。多くは被写体を取り逃がしてしまっているが、彼らが向けた眼差しをフィルムは正確に記録している。