写真を中心にビジュアル表現を探求するハンガリーのアーティスト、Marton Perlakiの作品集。本書は2018-23年の5年間にわたる、具象から抽象作品への移行期間の活動記録となっている。タイトルである「第三の手」は、制作行為によって現れる未知の力を示唆している。彼の作品の多くは、さまざまな光源と小道具を駆使した暗室での実験的な制作によって生み出される。即興的でありながら、その効果の詳細を執拗にノートに記録するさまはマッドサイエンティストのようだ。暗闇のなかで液体の薬品を用いて呪術的な像が浮かび上がるさまを、Felix Bazalgetteはホラー映画と結びつける。テレビ画面という硬い液晶を手で突き破り、液体を溢れさせながら登場する「リング」の貞子は、手が生み出す触覚と視覚の混じり合う感性を呼び起こす。
複数のシリーズはセクションごとに分かれ、各扉には色が割り当てられているが、編集上のガイドや整理の役割というよりも、作品相互の影響関係と彼が用いる色のマジックを、本というメディアに転写した形だと言える。シリーズ自体も分割され、何度も反復することがその証左だ。編集とデザインの可能性を作品とともに探るトライアルは、デザインを担当したOK-RMが自主運営するInOtherWordsから出版することで実現した。作品の記録を盛った器としての本ではなく、要素が互いに響き合うひとつのメディアとして自律性を獲得した本書は、デザイナーという「第三の手」が加わった結果である。