ベトナムを拠点に活動するThai Tuanによる写真集。本書に収められているのはTuanの隣家である。日々の食事、窓から差す光、個人的な思い出の数々。しかし中盤に差しかかるにつれ様相が変わってくる。クレーン車が入り込み、家は鉄骨を残して崩れ、祭壇は燃やされる。彼らはともに1997年から開発が中断された都市開発地区の隣に住んでいた。戸籍登録は認められておらず、居住は違法だった。というのも住宅バブルが繰り返されるなかで、そこは彼らが手に入れることのできる唯一の土地だったからだ。しかしさまざまな理由からTuanは立ち退きを逃れ、隣家は無惨にも破壊された。罪悪感を抱えたTuanは彼らの家に残されたものを記録し、非情にも立ち退きを迫る実態を伝えようとカメラを手に取った。
かつてたしかに存在した生活は失われた写真のようにリソグラフで印刷される。火に包まれたように真っ赤な表紙の紙には同色の印刷で刷られた彼らの家が、かすかに確認できる。デザインと印刷はWeDoGoodが手がけた。