オーストリア生まれのキュレーター、Cathrin Pichlerによる膨大な活動記録をアーカイブした本。ピヒラーはジャーナリズム、美術史、社会学、心理学、コミュニケーション理論、情報美学を学び、紛争研究所や科学アカデミーの人口統計学研究所、ウィーン美術館等で働いた。彼女はまた、教育芸術省初の連邦キュレーターをロバート・フレックとともに務め、ハラルド・ゼーマンのプロジェクトを監督している。アーカイブされた資料には未完のものも含まれており、彼女の走り書きのメモや電話中の落書きさえも収録されている。3年以上にわたるこのアーカイブプロジェクトを、「現在の膨大なデータ保存に対抗する、考古学的かつ詩的なカウンタープロジェクト」だとチームは説明する。しかしそれによって浮かび上がるのは彼女の活動がデータベース上で分離不可能だという矛盾である。優れた知識人があらゆる分野を横断するように、彼女もまたあらゆる知を交差するノードであった。「美術と科学は、世界を理解するためのシステムである。現実を探索する探針として、現実への新たな視点を開くものとして、新たな経験の可能性を試すものとして、そしてそれら自身の言語への翻訳を見つけるものとして」
本書は単なるアーカイブにとどまらず、どのように活用できるかを試行したアーティストたちの実践も含まれている。たとえばNika Autorは、ピヒラーの「TransAct」に着目する。右派の保守政党が台頭したオーストリアにおいて、ピヒラーはジョン・バルデッサリやローレンス・ウェイナー、スラヴォイ・ジジェクなど数多くのアーティストや学者に声をかけ、国際的な抵抗ネットワークを構築するために、反対声明を新聞に発表するプロジェクト「TransAct」を行った。Autorはこれを参照しつつも、強い主張を伴う声明とは異なる詩的な言葉を記録した『影に覆われた土地からのニュースリールの断片』を発表する。その中にはパレスチナ・ガザ地区の高校でソーシャルワーカーとして働いていたが、避難を余儀なくされたアーティスト、Etaf Abdelrahmanによるテキストも含まれており、現在進行形の社会問題を、彼女の意思を引き受ける形で継続している。新聞紙に印刷された本書は「TransAct」プロジェクトに明確に対応するものであり、言葉の伝達と用紙の選択におけるデザインの必然である。