美術家・野沢裕によるアーティストブック。野沢は、イメージとそれが投影される空間や境界を行き来しながら複数の時空間と偶然性を呼び込み、主に写真や映像、インスタレーションの形式で作品を発表してきた。本書は、スペイン滞在中に野沢が制作した10部限りの書籍『→□←』(2014)を基に、その後の10年の歳月の中で得られた写真を用いて同じ形式のもと、新たに構成した新刊である。日常的なオブジェやとるにたらない風景のなかに、彼はイメージとフレームの関係を見出す。画中画である写真は、ノドをまたいだ見開きのレイアウトやページネーションによって、やがて本そのものをフレームとして機能させ、読者の視点さえも取り込みはじめる。本という立体が抱え持つ3つの面は、タイトルが示す構造と見事に一致している。そして本棚にしまうときに改めて気づく。本の背と対峙する読者の目は、正面から眺める第三の視点として誘いを受けていることに。
東京大学大学院総合文化研究科教授の桑田光平(現代フランス文学、表象文化論研究)による論考、および作家が在学したマドリッドのIED(ヨーロッパ・デザイン学院)で写真を教えていたリカルド・カセス(写真家)の書き下ろしの詩を収録。作家本人の造本の意図を汲みながら、細部を適切に調整したデザインは本庄浩剛によるもの。