グラフィックデザイナー兼作家のSam de Grootによって描かれる現代のイソップ風の寓話的絵本。優しく愛らしい少年Ottoは突然手がつけられないほど気性が荒くなり、すべてを傷つけてしまう困った性格の持ち主であった。両親は防衛することでそれをやり過ごすが、ある日現れたキツネのRonnieのしっぽを口にくわえることでその癇癪は治まった。彼らの友好関係が崩れることを恐れた両親はまたも別の手を考えるが…。
子ども向けの絵本を装ってはいるが、デ・グロートが述べるように、本書は親が子どもとどう向き合うべきかと、感情の発露と抑制についての精神分析的な問いを投げかけている。実はこの本、タイプファウンドリー「Dinamo」が手がけた「Dinamo Editions」から発売された最初のタイトルであり、「Otto」という書体の見本帳(スペシメン)でもある。書体を手掛けたのは同じくSam de Grootと、俳優としても活動するタイプデザイナー、Laura Opsomer Mironovの2人で、イラストは『ザ・ニューヨーカー』への掲載でも知られるHannah Robinsonが手がけている。17世紀のMiklós Kisの書体をベースにしながら、全体的に丸みを帯び、独特のイタリックを備えた書体の魅力は本書でも十分発揮されている。少年Ottoのように、デザイナーたちはみなそれぞれの素早く茶色いキツネ(quick brown fox)を探しにいかなくてはならない。