アーティスト、Yoon Hyangroによる展覧会「Mirae: Map for Sky and Roots」の記録集。「Mirae」はYoonによって描かれた26のキャンバスをひとつに合わせた大型の作品である。本作が特徴的なのは、壁面に飾られるのでも床に置かれるのでもなく、展示会場の天井に設置されている点にある。彼女がインスピレーションを受けたテッド・チャンの短編小説『バビロンの塔』では、天にまで登頂したはずが実は地面であるような、反転と矛盾に満ちた世界を描く。絵画は宇宙のようにも地面のようにも映り、彼女の作品もまた天地が反転する錯覚を呼びおこす。しかし壮大にも見える絵画の着想源は、彼女が研究で訪れた沖縄の狭い洞窟である。一方は日本軍の狂気的教育によって村民の集団自決が行われたチビチリガマ、もう一方は米軍との対話によって全員が生き延びたシムクガマ。
生と死を分つもの、異なる時間を巨大な絵画作品として提示した本展覧会は、Shin Shinによってデザインされた記録集で再構成される。作品同様、26に分割された細長い紙片は何度も折り込まれ、開くたびに天と地を行き来する。ステイプルを外し、繋ぎ合わせればひとつの作品が再現できるが、絵画の断片と出合い直すことで、展覧会とは異なる作品の鑑賞体験を、本というメディアで伝えている。