美術作家・木下理子による2024年2月に9日間のみ開催された展覧会「幽かなスリル」を収録する記録集。建築家・西沢立衛の代表作の一つとして知られる「森山邸」は、白くすっきりとした空間のなかに、作家の作品も布巾もフラフープも、みなひとしなみに同居している。木下の作品は身近な素材や簡易な構造で構成されたものが多く、環境と調和しているようでいて、サイズや配置を自在に変化させることでただならぬ緊張を生み、空間に幽かなスリルをもたらす。棚や机のうえで起きている小さなオブジェたちのドラマと、突然スケールの変化する広々とした空間を、写真家の高野ユリカが撮影し、記憶を手繰るアルバムのような造本デザインは明津設計が手掛けている。
薄めの板紙に挟まれた溝のない小さなハードカバーは、手に馴染むようでいてスリリングであることを忘れていない。詩人・田野倉康一と作家本人のテキストを日英併記で収録。