本書はThomas Fougeirol(トマス・フジュロル)とJo-ey Tang(ジョーイ・タン)の2人のアーティストによる写真プロジェクトの作品集。パリ近郊にある仮設の暗室を舞台に2013年から2018年にかけて、さまざまな国籍のビジュアルアーティスト、ミュージシャン、作家など総勢100人以上のアーティストが参加し、フォトグラム(photogram)を用いて制作した作品をまとめたもの。
フォトグラムは、感光紙の上に物体などを直接置き、光を当てて像を定着させる専門性に依存しない撮影技法のこと。身の回りにある日用品をただ並べたものや、手や髪といった見慣れた体のパーツも、光の明暗差によって形や密度がより浮き彫りにされ新鮮なものに見えてくる。手書きのメモなど言葉をモチーフにしたものも言葉の意味よりも形が先に印象に残る。これらの作品を見ていると自分も参加したくなり、フォトグラムというテーマ設定がより多くの人が参加しプロジェクトとして成功した理由の一つだと感じる。また本の中盤には展示空間の壁面一杯に作品たちが敷き詰め並べられている風景写真が掲載されている。その写真を眺めていると、光によって定着された作品内の痕跡が、呼応しあうことですべての作品が一つの共同作品のように見えてくる。
2019年にプロジェクトの全作品がパリの国立近代美術館に寄贈され、全貌が本書にまとめられた。本書はまさにプロジェクトとアーカイヴの理想的な循環の記録と言えるだろう。