クラフト紙の表紙にスミ1色の、どこにでもありそうなこのノートブックは、シンガポールの小学生が使っている一般的な練習帳だそうだ。本書は、アーティスト・Catherine Huがそのノートを手描きで複製し、リソグラフで印刷したもの。彼女は主に彫刻とプリントメ ディアで活動するアーティスト。既存のオブジェをコピーすることで、オリジナルと複製物の間にある関係性を探究している。
もともとこのノートは彼女自身によって一冊一冊手描きで描かれたものだった。それを初版とするならば、リソグラフを用いた本書は第 2刷となるだろう。勉強のためのノートには、そもそもオリジナルというものが存在しない。道具として使用するために複製を前提としているからだ。そのため彼女が複製を試みるノートそれ自体、すでに複製品である。そして彼女によって複製された手描きのノートを、 再度リソグラフで印刷することは複製の複製といえるだろう。完全な複製を実現するため本書にクレジットはない。シュリンクされた包装の上に、わずかに情報の記載されたシールが貼付されるのみだ。